壁にぶつかっても大丈夫!幼児期に家庭で育む『レジリエンス』の重要性と具体的なアプローチ
未来を生き抜く力、『レジリエンス』とは何か?
現代社会は変化が速く、予測が難しい時代と言われています。このような時代を子どもたちが健やかに、そして力強く生き抜いていくためには、単に知識や技能だけでなく、困難な状況に遭遇した際に落ち込まず、立ち直り、前向きに進む力が求められます。この力を「レジリエンス」と呼びます。心理学の分野などで注目されているレジリエンスは、「精神的回復力」や「逆境に負けないしなやかさ」と訳されることがあります。
幼児期は、このレジリエンスの土台が作られる非常に大切な時期です。この時期に、挑戦することの楽しさ、たとえうまくいかなくてもまた立ち上がること、そして周囲にサポートを求める経験などを通して、子どもたちは心のしなやかさを育んでいきます。家庭での日々の関わりが、子どものレジリエンスを育む鍵となります。
なぜ幼児期にレジリエンスを育むことが重要なのか
幼児期の子どもたちの脳は驚くべきスピードで発達しており、特に感情や社会性、自己認識に関わる脳の領域が活発に成長します。この時期に安全な環境の中で様々な経験をすることは、脳のネットワーク形成に大きな影響を与えます。
レジリエンスは、持って生まれた気質だけでなく、育つ環境や経験によって育まれると考えられています。特に、信頼できる大人との愛着関係(安全基地)の中で、小さな挑戦と失敗を繰り返し、そこから学びを得る経験が、レジリエンスを培う上で不可欠です。幼児期にこれらの経験を十分に積むことで、小学校入学後、さらには大人になってから直面する様々な困難に対して、諦めずに立ち向かい、乗り越える力が育まれるのです。
家庭でできる!レジリエンスを育む具体的なアプローチ
では、日々の生活の中で、どのように子どもたちのレジリエンスを育んでいけば良いのでしょうか。いくつか具体的なアプローチをご紹介します。
1. 安全で安心できる「心の基地」になる
子どもにとって、家庭は最も安心できる場所であるべきです。何があっても受け止めてもらえる、愛されていると感じられる環境があるからこそ、子どもは安心して外の世界へ挑戦し、たとえ失敗しても立ち戻ってエネルギーを充電できます。
- 無条件の愛情を示す: 子どもの良いところだけでなく、困った行動をしたときも、存在そのものを肯定的に受け止める姿勢が大切です。
- 感情を受け止める: 子どもが泣いたり怒ったりしたとき、その感情を否定せず、「嫌だったね」「悲しかったね」と共感の言葉を伝え、受け止めることで、子どもは自分の感情を理解し、調節することを学びます。
2. 挑戦を促し、プロセスを承認する
子どもが何か新しいことに挑戦しようとするとき、結果だけでなく、挑戦しようとした気持ちや努力したプロセスを認め、褒めることが重要です。
- 「やってごらん」の声かけ: 子どもが少し難しいと感じることでも、「大丈夫、やってみようか」「どうすればできるかな?」と前向きな声かけで挑戦を後押しします。
- 結果よりもプロセスを褒める: ブロックを高く積もうとして崩れてしまっても、「一生懸命考えて積もうとしていたね」「次はどうしたら崩れないかな?」など、努力や工夫した点に注目して声をかけます。
3. 失敗を肯定的に捉え、学びの機会とする
失敗は悪いことではなく、成長のための貴重な経験であることを伝えます。
- 失敗から学ぶ機会を与える: 子どもが失敗したときに、すぐに親が解決するのではなく、「どうしてうまくいかなかったのかな?」「次はどうしてみようか?」と一緒に考え、自分で解決策を見つけるサポートをします。
- 親も失敗を語る: 親自身の小さな失敗談や、そこからどう立ち直ったかを話すことで、失敗は誰にでもあることであり、乗り越えられるものだと子どもに伝わります。
4. 自分で考え、選択し、決める機会を増やす
自分で選び、決定し、その結果を受け入れる経験は、自立心と自己肯定感を育み、レジリエンスの重要な要素となります。
- 選択肢を与える: 例えば、「今日着る服はどっちにする?」「遊びたい絵本はどれ?」など、自分で決められる小さな選択肢を用意します。
- 自分でやる機会を設ける: 食事の準備を手伝う、自分のものを片付けるなど、年齢に応じた役割やお手伝いを通して、「自分にはできることがある」という感覚(自己効力感)を育みます。
5. 感情を言葉にする手助けをする
自分の気持ちを理解し、適切に表現できることは、ストレス対処能力を高める上で重要です。
- 「嬉しいね」「悔しいね」と代弁する: 子どもの様子を見て、感情を言葉にして伝えることで、子どもは自分の気持ちに名前をつけられるようになります。
- 絵本などを活用する: 様々な感情が登場する絵本を読み聞かせ、登場人物の気持ちについて話し合うことも有効です。
年齢に応じたレジリエンスの育み方
レジリエンスの育み方は、子どもの発達段階によって異なります。
- 0〜1歳頃: 何よりも安全基地としての役割が最重要です。泣いたらすぐに駆け寄り、抱きしめることで、世界は安心できる場所であり、自分は守られていると感じる基盤を作ります。
- 1〜3歳頃: 歩き始めやつかまり立ちなど、転んだりうまくいかない経験が増えます。安全を確保しつつ、すぐ手を出さずに見守り、「大丈夫だよ」「もう一度やってみようか」と優しく声をかけます。自分でやりたい気持ち(自律性)を尊重し、見守ることで、小さな成功体験を積み重ねられるようにします。
- 3〜6歳頃: 遊びの中で友達との関わりが増え、思い通りにならない経験が増えます。玩具の貸し借り、順番、ルールなど、社会的な葛藤を経験し、乗り越える過程を見守ります。簡単な課題(パズル、お絵かきなど)に挑戦させ、難しさに直面したときにどうするかを一緒に考えます。失敗を恐れず、再挑戦する姿勢を応援します。
まとめ:焦らず、見守る大切さ
レジリエンスは一朝一夕に身につくものではありません。日々の生活の中での小さな関わりの積み重ねが、子どもたちの心のしなやかさを育んでいきます。他の子と比べて焦ったり、完璧を目指したりする必要はありません。子どものペースを大切にし、つまずいたときにそっと寄り添い、立ち上がる勇気を応援する。家庭が子どもにとっての揺るぎない安全基地であること、そして挑戦と失敗、そこからの学びを繰り返せる環境を提供することが、未来を生き抜くレジリエンスを育む最も効果的なアプローチと言えるでしょう。
幼児期の家庭での温かい関わりと、子どもの可能性を信じて見守る姿勢が、子どもたちの将来の大きな力となることを願っています。